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つくる

新居猛の想いが息づく
50年の継承と発展

“新旧ニーチェアエックスを
徹底比較”

ニーチェアエックスは、デザイナーの新居猛によって1970年に発売されました。当時の日本的な住環境を背景に、折りたたんで収納がしやすい椅子として生まれた同シリーズは、新居の「座り心地を落とさず、とにかく安く、道具のように役に立ってこそ椅子」という信念のもと、その技術を受け継ぐ作り手たちによって今なお、進化を遂げながら続くロングセラーです。

そんなニーチェアエックスが50年の節目を迎えた2020年、ご愛用者より「72年に購入したニーチェアエックス」の情報を入手することができました。曰く、家を新築した際にあわせて購入したものだそうで、新居の実家でもある徳島の「有限会社ニーファニチア」で製造された初代モデルであると考えられます。

ニーチェアシリーズには、各部品の仕様や寸法を示す設計図が残されておらず、現存する実物を目の前にできることは大変貴重。そこで今回は、新旧ニーチェアエックスを細部にわたって検証。デザインの変化を画像で比較します。

“シート”

身体をしっかりと、やさしく支えるニーチェアエックスのシート。その快適な座り心地を実現する専用生地は、剣道着や道具袋から着想を得ており、徳島県の剣道具屋の三代目として生まれた新居らしいルーツを感じさせます。

現在は、岡山県倉敷市や滋賀県高島市の帆布工場で分担して生産されていますが、新居が製作した生地の「一度洗ったかのような柔らかさと手触り」を再現するために、しっかりと身体を支えられる厚手の生地を使いながらも、わざと細かな毛羽立ちを起こす起毛加工を施し、優しい肌触りにこだわっています。

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優しい肌触りを生む細かな毛羽立ち

【ここが変わった!】
縫製方法で
生産性&耐久性がアップ

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左:初代モデル 右:現行モデル

前述の通り、座った人の体重と椅子の構造を無理なく支えるだけの強度を保つため、厚手の生地を採用しているニーチェアエックス。最大で7回も折り重なる生地を縫い上げるには、繊細な手技が試されます。

初代モデルのシートは1本針のミシンを使って、2本のステッチを1本ずつ仕上げていましたが、現在では2本を同時に縫い上げる「ダブルステッチ」に変更されています。ジーンズなどに用いられる製法で、これによってストレスのかかる部分を補強しながら、生産スピードを格段に向上させることが可能になりました。

また、背部の補強ステッチも、初代モデルはゆとりが広く設けられており、開閉時に中でシートパイプが動いて擦れてしまうことがありました。劣化の原因となるこの部分にも改良を施し、現在では耐久性が強化されています。

“肘かけ”

初代モデルの肘かけは、オーク材(ナラ材)。硬度・密度が高く耐久性に優れており、湿度によって伸び縮みすることも少ない材質で、コストが高い傾向にある広葉樹の中で、当時は手頃な価格で流通していたことからも、新居が心掛けていた「とにかく安く」の基準を満たす木材として採用されたと考えられます。

【ここが変わった!】
木目のちがいを「個性」と捉えた
素材選びで自然環境に配慮

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左:初代モデル 右:現行モデル

現在、ニーチェアエックスの肘かけには、ビーチ材の「ナチュラル」と「ダークブラウン」の2色があります。そのなかでも「ナチュラル」は、左右での木目の違いや節が目立つことも。従来は、見た目の美しさにこだわり、厳選された木材を使ってきましたが、森林資源が減少し続ける近年の状況を鑑み、ニーチェアエックス 50周年記念モデルの生産を皮切りに、自然のままの風合いを生かした素材選びを推進しています。

環境の変化に応じて、長くものづくりを続けていくための選択をする。「世界中の人に使われる自転車のように」と、より多くの生活者にニーチェアエックスをお届けするために尽力した新居の精神がここにも根付いています。

【ここが変わった!】
安心・安全を守るために
ネジ・ボルトの見直し

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左:初代モデル 右:現行モデル

ニーチェアエックスは発売当初から、簡単に組み立てやメンテナンスをいただけるように、どのご家庭にもあるプラスドライバーで締めることができるネジを使用しています。

現在では、手入れのしやすさに加え、より安心・安全にニーチェアエックスを愛用していただけるよう、さらなる工夫にも取り組んでいます。

まず材質を、スチール製から、錆びに強いステンレス製に変更。これにより、劣化によって折れることや、錆びついて回らなくなるといったストレスが解消されました。

また、購入者ご自身で組み立てていただく箇所以外には、六角形状の穴付ボルトを採用。ニーチェアエックス本来の安全な設計を保ち、誤って分解・改造してしまうことのないように改良されています。生産の現場でも、六角穴付ボルトはネジ穴が崩れにくいなどの利点があり、作業効率の向上にも大いに役立っています。

“パイプフレーム”

頭から背、腰までを支えるように計算された、緩やかなU字型のカーブを実現するため、初代モデルには、曲げ加工が容易なスチールが使われています。一方、スチールには錆びやすいという弱点もあり、実物を見てみると、光沢・耐食性のために施されたクロムメッキが、およそ50年の年月を経て劣化していることがよく分かります。

【ここが変わった!】
メンテナンスフリーで美しさを長く保つ
「ヘアライン仕上げ」

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左:初代モデル 右:現行モデル

現在のニーチェアエックスには、ヘアライン加工されたステンレス鋼を採用しています。

ヘアラインとは、ステンレスの表面に毛髪ほどの細やかな縦線が入るように加工する方法で、パイプの過剰な光沢を避け、マットに仕上がるため、使用を重ねることで生じる微細な傷や歪みを目立たなくさせるメリットも。経年劣化による補修や塗装といったお手入れの必要もなく、美しい表情を保ちながら、長くご愛用いただくことができるようになりました。

“パッケージ”

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左:旧モデル(年代不明) 右:現行モデル

新居は、生涯をかけて色々な形状のニーチェアエックスの開発に取り組みました。彼がこれほどまでに「折りたたみ椅子」というテーマに向き合った理由のひとつが、荷姿を小さくし、輸送コストを抑えられること。

この観点は、現在のニーチェアエックスにも受け継がれており、部品に分けて隙間なく梱包し、開封後にお客様ご自身で組み立てていただくことで、品質を落とすことなく、手に届きやすい価格で提供することを可能にしています。

【ここが変わった!】
世界中のニーズに対応するべく 梱包をさらに縮小化

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下:旧モデル(年代不明) 上:現行モデル

現在では、日本のほか、アメリカ、フランス、ベルギー、韓国など10カ国以上で販売されているニーチェアエックス。国内の流通コスト高騰への対策はもちろん、海外発送にも対応しやすいよう、部品の詰め方などをさらに工夫することで 3辺の合計を160cmまでコンパクトにすることに成功しています。

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新旧二つのニーチェアエックスの比較を通じて、そのデザイン性やディテールへのこだわりはもちろん、身の回りにある材料を最大限に活用し、生産体制や流通の仕組みまでも考え抜く、新居猛というデザイナーの“視野”の広さを改めて実感した今回。

技術は日々進化し、新しい便利な製品も続々と生まれる中でも、「生活者の暮らしよさ」「使い心地のよさ」を何よりも大切に考え続けた、新居の想いは時代を超えて普遍的です。

その温度が作り手にも伝わり、心動かされるものがあったからこそ、50年もの間、ニーチェアエックスのものづくりは火を絶やすこと無く、脈々と繋がってきたように思います。

既にご愛用いただいている方も。これから出会う方も。ニーチェアエックスをご使用の際には是非、その包み込まれるような座り心地とともに、一脚の椅子に込められた作り手たちの想いも感じていただけたら、幸いです。

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  • 暮らす

    ニーチェアエックスの
    ある暮らし
    デザイン事務所 TSUGI 代表
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    「NIPPONIA 小菅 源流の村
    SKETCH代表 関根将吾さん」

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