ものづくりへのこだわり

一貫した国内生産、各部品に込められた思い

継承後も発展しつづける
ニーチェアエックスのものづくり

ニーチェアエックスには設計図が残されていないため、事業継承後は実機をもとに、一から開発を行いました。使用されている部品は、わずか6種類。装飾のないシンプルなデザインですが、部品一つひとつが全体の美しさに影響し、安全性や座り心地にも直結するため、ごまかしが利きません。細部までこだわり抜かれた、部品製造の背景を紹介します。

シート生地

身体を支える丈夫な厚織生地

生地製造
座ったときにかかる荷重を無理なく支えられる強度を保つため、デニム地と同じ「綾織り」を採用。新居が生み出した独自の「一度洗ったかのような柔らかさと手触り」を再現するため、生地表面を引っ掻き、毛羽立たせる起毛加工を施した。通常は、織った後に染色と撥水加工を同時に行うが、染色後に起毛加工を施してから撥水加工するという工程を踏んでいる。

この独自のシート生地は、剣道具店の三代目という出自の新居が、剣道着や道具袋に着想を得て開発したもの。生地を水に浸し、自らの足で張り具合を探ったという。現在は、岡山県倉敷市と滋賀県高島市の工場で分担して製造している。製織、加工、染色と、複数の作業場の技術に支えられ、製造されている。

綾織り
経(タテ)糸・緯(ヨコ)糸を1本ずつ交互に組み合わせて織る「平織り」に対し、「綾織り」は経糸が複数の緯糸をまたぐように織る方法。糸の密度を高くして厚地に織ることができ、ふくらみのある柔らかな風合いで、伸縮性に優れ、シワが寄りにくい。

Shikiri用の柄ありシート生地製造について
エックスシリーズや80シリーズのシート生地は、製織後に後染めを行っているのに対し、特徴的な柄のあるShikiriの生地は、糸を先染めし、複数色の糸で柄を織り上げる。

柄を織る際には「パンチカード」という穴のあいた薄い樹脂板で、穴の位置や有無で柄の入る箇所を機械に指示する。ストライプの太さは糸一本から細かい調整を行い、河東氏のデザインを忠実に再現した。3色あるShikiriの生地は別の色を並べて使っても違和感がでないよう、先染めした糸をそれぞれ1色ずつ共通に使っている。

生地縫製
作業スピードの向上と、座ったときにストレスのかかる部分を補強するため、現在は「ダブルステッチ」という、ジーンズなどに用いられている縫製方法を採用している。初代のニーチェアエックスは、1本針ミシンで、2本のステッチを1本ずつ仕上げていたが、2本同時に縫い上げることで、コストの削減や生産量の増強にもつながった。

背部に補強ステッチを入れることで、椅子の開閉時にシートパイプが動き擦れてしまうことを防ぎ、耐久性を強化することができた。

最大で7回折り重なる厚手の生地を縫い上げるため、針や糸の負担も大きく、調子が狂いやすい。わずかな変化が縫製不良につながるため、経験に裏打ちされた繊細な手仕事に支えられている。

肘かけ

身体が触れるところは、安心感を与える自然素材

体にあたる部分は「ホッとするから、自然素材のものがいい」と初期から木材を採用。角度や高さも、人間の腕の構造を考慮し、疲れにくいよう計算して設計されている。

肘かけは、パイプとネジ1本で接続されているため、わずかな穴の誤差がフレームの角度を左右し、座り心地に大きな影響を与えてしまう。試行錯誤の末、ニーチェアエックスのために、コンピューター制御の専用加工機を新しく導入。木材の削り出しから穴あけまでを一貫して加工できるようになり、コストと生産性、加工精度を向上させた。

シリーズごとに複数のカラーをラインナップしているが、「ナチュラル」や「ソープフィニッシュ」などは、節や木目が目立ちやすいため、色、濃淡なども含めて左右で揃うように、人の目で確認を行っている。

ナチュラル/
ウレタン樹脂塗装
ダークブラウン/
ウレタン樹脂塗装
ソープフィニッシュ
(Shikiri用)
チャコールブラック/
ウレタン樹脂塗装
(Shikiri用)
LIMITED:
オイルフィニッシュ

オイルフィニッシュと環境への取り組み
自然のままの節や木目を、表情の違う“個性”として楽しんでもらいたいと、経年美化の楽しめる「オイルフィニッシュ」を、数量限定で発売。長くものづくりを続けるために、自然環境の変化にも、柔軟に対応していく。

シートパイプ

シンプルな構造ゆえに求められる、
精密な穴あけ加工

ニーチェアエックスは、シートと肘かけをネジ1本、4箇所で固定しているため、肘かけとパイプのネジ穴が合うよう、精密に計算されている。

また、組み立て時の不具合を改善するため、以前は切削ドリルで行っていた穴あけ加工を、レーザーに変更。切削で生じる微細な位置のズレや、残留物をパイプ内外に残すことがなくなり、組み立ての際にネジがうまく締められないなどの不具合を解消した。

脚部パイプ

高度な曲げ技術と、美しさにこだわる姿勢

パイプは、ステンレス板を円筒状に加工し、つなぎ目を溶接することで成形している。脚部の美しさをそこなわぬよう、曲げ加工の際には、穴の内部を目視で確認し、溶接跡を内部に向ける工夫をしている。

左:初代モデル 右:ステンレス鋼に変更

初代モデルは、曲げ加工が容易なスチールを採用していたが、経年で錆びる可能性があるのが弱点だった。より永くご愛用いただくため、素材をステンレス鋼に変更した。

表面加工は、パイプの過剰な光沢を避け、インテリアにも馴染むように、マットな仕上がりのヘアラインを採用。使用を重ねることで生じる微細な傷や歪みを目立たなくさせるメリットも。経年劣化による補修や塗装の必要がなく、美しい表情を保ちながら、永く愛用できる。

ネジ

しっかり締まり、緩めやすく、
錆びにくい

劣化で折れることや、錆びついて回らなくなることを防ぐため、初代モデルではスチール製だった材質を、サビに強いステンレス製に変更した。

ニーチェアエックスは発売当初から、組み立て、分解のしやすさを考慮し、どの家庭にもあるプラスドライバーだけで作業できるように、十字のネジのみを使用してきた。ただ、脚部の交差部など、頻繁に閉じ開きをする箇所は、経年で緩みが生じやすかったため、購入後の組み立てが必要な箇所以外は、より締め付け力の強いネジに変更した。

可動部が多く、エックスに比べ、構造上ネジが緩みやすかったニーチェアエックス80では、ネジが緩みにくいよう特別に、特殊な潤滑剤を塗布したネジを採用している。