こだわりのものづくり

北欧デザインの
最先端の熱気へ。
ニーチェアエックスが参加した「other circle」とコペンハーゲンデザインレポート。

デンマーク・コペンハーゲンで開催されたデザインの祭典「3daysofdesign」。その会期に合わせて開かれ、いま世界中から熱い視線を集めているのが、新たなデザインプラットフォーム「other circle(アザー・サークル)」です。
2025年にスタートした「other circle」は、街の中心部から少し離れた工業用スタジオ「The Lab」を舞台に、アート、デザイン、音楽、食、ファッションなど、多様な領域のクリエイターやブランドが国境を越えて集うイベント。実験的で自由な精神に満ちたコミュニティハブとして、2回目となる今年はさらに規模を広げ、現地でも大きな注目を集めました。

この刺激に満ちた空間に、「ニーチェアエックス」が出展しました。
日本で生まれた普遍的な美しさと、現代の暮らしに寄り添う機能性を併せ持つニーチェアエックスは、最先端のカルチャーが交差するコペンハーゲンで、どのように受け入れられたのでしょうか。
会場での展示や反響を中心に、コペンハーゲンのデザインウィーク期間中に市内で出会った、インスピレーションに満ちたブランドやプロジェクトの様子とあわせてレポートします。

other circle

開催2回目となる今年は、4大陸15か国以上から約80組が参加。3,740平方メートルに及ぶ「The Lab」のインダストリアルな空間に、家具やプロダクト、アート、ファッション、食など、領域を掲げない多様なジャンルが集結。展示に加え、トークや音楽プログラムも展開され、連日多くのクリエイターや来場客で賑わいました。

ここで重視されているのは、新しさや話題性だけではありません。それぞれのブランドが何を大切にし、どのような文化や思想のもとでものづくりを続けているのか。その背景まで含めて紹介されることで、プロダクトは従来とは異なる文脈のなかで捉え直されるきっかけになるのです。参加するデザイナーやブランドにとって「other circle」は、自らのアイデンティティを世界へ提示すると同時に、異なる文化や価値観との交わりから、新たな可能性を探る場。会場全体が活気を帯び、コミュニティのように機能していたのも印象的です。

Nychair X (ニーチェアエックス)|other circle

今回、ニーチェアエックスが展示を行ったのは、会場2階の入口近く、来場者を迎える場所。建築やインテリアを軸に活動する日本のデザインスタジオ「moss.」との協働により、ニーチェアエックスの思想をひとつの空間として表現しました。
着想の源となったのは、椅子が生まれた背景にも通じる、「限られた空間のなかで、いかに心地よく暮らすか」という日本の住まいの知恵です。細い鉄のフレームを重ねて立体的な構造をつくり、空間のなかに静かな“輪郭”を生み出しました。そこに柔らかく掛けられた布は、ニーチェアエックスのシート生地が持つ素朴な質感を受け継ぎながら、日本の「のれん」にも通じる佇まいをまとっています。

空間を緩やかに仕切る布には、ニーチェアエックスの成り立ちや思想を記した言葉を添えました。

光や空気、人の気配が緩やかに通り抜けることで生まれる“間”。家具と建築の境界を緩やかにつなぐような空間構成と、その軽やかな佇まいが、ニーチェアエックスの静かな美しさを際立たせていました。持ち運ぶことができ、置く場所を選ばず、暮らしに合わせて柔軟に使える。そんなニーチェアエックスの思想とデザインを、空間そのものの軽やかさへと置き換えた展示でした。会場では、実際に椅子に腰掛け、その座り心地のよさを確かめる来場者の姿も多く見られました。
なお、今回展示した製品は、従来からある定番品に加え、昨年発売したオイルフィニッシュモデルです。定番品と新しいモデルが並んだことで、ニーチェアエックスの普遍性と継続する進化の両方が際立ちました。 新しいデザインが数多く発表されるother circleにおいて、55年以上にわたり受け継がれてきたデザインであることが、かえって新鮮な驚きをもって受け止められていたことも印象的でした。

細い鉄のフレーム、スペースを緩やかに仕切る暖簾のような布、畳を思わす床の設え。ミニマムな素材と構成で日本的な空間の「間(あわい)」を表現しました。建築やインテリアを軸に、環境に寄り添う心地よい空間を生み出す日本のデザインスタジオ「moss.」と協働し、展示空間をデザインしました。
other circle会場の屋外スペースにも持ち出された「Nychair X 80」。ワインやフードを片手に多くの来場者がコミュニケーションを取る場所で、必要な場所へ軽やかに移動でき、思い思いの場所でくつろげるというニーチェアエックスの自由な使い方も提案されました。

「UKURANT」|3daysofdesign

若手デザイナーの実験的な表現に光を当てる、デンマーク発の展示プラットフォーム「UKURANT(ウクラント)」。既存のデザインシーンの枠にとらわれず、新しい世代が自由に作品を発表し、分野を越えて交流できる場をつくることを目的に2019年に設立されました。現在では、次世代を担う才能と出会える「3daysofdesign」屈指の注目スポットになっています。

「Fabrikken for Art & Design」の広々とした空間に、世界各国の若手デザイナー26組による作品が集結。白い紙で覆われた大小の展示台を、余白を生かして配置。素朴な構成でありながら、一つ一つの作品の個性を鮮やかに際立たせていました。

5回目となる今年のテーマは「Makes Room」。会場となったのは、かつて工場として使われ、現在は多様な世代や領域のクリエイターが集う制作拠点「Fabrikken for Art & Design」。世界各国から公募で選ばれた26組の若手デザイナーが参加し、家具やオブジェ、テキスタイルなどを通して、素材やクラフト、ものづくりの新たな可能性を提示しました。
今回、特に焦点が当てられたのは、完成した作品だけでなく、そこに至るまでの思考や試行錯誤の変遷。素材の実験やデザイン上の試行錯誤もあわせて紹介し、一つの作品が形づくられるまでの思考や手仕事にも光を当てていました。工場の広い空間には大きな紙を貼り合わせた展示台が点在し、個性の異なる作品をシームレスに繋ぎながら、それぞれを際立たせた展示が印象的でした。

布のインスタレーションはスウェーデンのテキスタイルデザイナー、シリ・ペッターソンによる「Triptych for Roma」。3枚の手織りのテキスタイルに色彩の濃淡とグラデーションを重ね、織りの規則的な構造に柔らかな揺らぎを生み出した作品。
ステージ台を白い紙で覆い、作家名と作品名を直接印字した展示台。新たな資材の使用を抑えながら、作品を引き立てる簡潔で美しい展示風景をつくり出している点も新鮮でした。

「aarticles」|3daysofdesign

異なる時代や土地で生まれたものを組み合わせ、新たな関係や物語を立ち上げる。「aarticles(アーティクルズ)」は、「FRAMA」でヘッド・オブ・クリエイティブを務めるフレッド・オートゥンと、ブランドプロデュースやPRを手掛けるカシア・シュナイダーによるキュレーションプラットフォームです。プライベートでもパートナーの2人が、それぞれ自宅に迎え入れた作品について語り合ってきた習慣が、この活動の始まりです。

コペンハーゲン旧市街の歴史的なアパートメントを舞台にした「Compositions」。ヴィンテージと現代作家の作品が、誰かが実際に暮らしているような親密な風景のなかに溶け込んでいます。

コペンハーゲン旧市街の歴史的なアパートメントに、二人が選んだヴィンテージと現代作家の作品を、実際に誰かが暮らしているような住空間として構成。「Compositions」と題したテーマは、木や陶器、ガラス、金属など、年代も背景も異なるものが自然に共存し、互いの色や質感、形の響き合いが多様に組み合わされていて、思わず目を引く展示でした。

なかでも注目は、カリフォルニアを拠点とする彫刻家ヴィンス・スケリーのヨーロッパ初展示。西海岸の木材を一つの塊から削り出した、チェスの駒を思わせる力強い彫刻を発表。新旧を対立させず、時間を重ねた一つの風景として見せる展示構成が印象的でした。「aarticles」の審美眼によって編まれた空間は、ものが置かれる環境や隣り合う存在によって、暮らしの風景が新たな物語を帯びていく――そんなことを思わせてくれる展示でした。

使い込まれた木のテーブルに、陶器や銀の器、古いオブジェをさりげなく配置。作品を鑑賞の対象として切り離さず、日々の暮らしの延長にあるものとして見せる「aarticles」らしい設えでした。
18世紀に建てられたアパートメントの4階に上がると、アーチや扉の向こうに陶器やガラス、木の彫刻が広がる。空間の奥行きを生かした構成が、その先に続く展示への期待を静かに高めていきます。

「TADAIMA」|3daysofdesign

日本では日常に溶け込んだ言葉を名前に持つ「TADAIMA(タダイマ)」は、2021年にコペンハーゲンで設立されたデザインスタジオ兼コンセプトストア。キュレーションや空間設計、オリジナルプロダクトの開発など、領域を横断して活動しています。今年、ストアを移転し新たに公開したのは、市内中心部のアパートメントの新拠点「Tadaima 2.0」。ギャラリー、スタジオ、ストアの機能を備えた住空間に、家具や照明、アート、オブジェたちが実際の暮らしの風景に溶け込むように並んでいました。

ウクライナ出身の建築家・デザイナーのアンナ・リュビモワが手がける「SESTRÁ」の初コレクション。炭化させたアッシュ材による「Balancing Table」や、言葉を施したキャンバスを組み合わせた「Contemplation Stool」など、日常の小さな行為を通して、心の安定や居場所について問いかける詩的な作品が並びました。

「3daysofdesign」期間中の展示テーマは「Soft Monuments」。素材の重さや温度、形、周囲の余白が、人の感覚や空間との関係にどのような作用をもたらすのか。ただ作品を鑑賞するだけではなく、椅子に座り、その佇まいや空気までを身体で受け取ってほしい——そんな思いが込められた空間では、ギャラリーを巡った来場者が再び同じ作品の前へ戻り、その形や素材をじっくりと確かめる様子も印象的でした。

慌ただしいデザインイベントのなか、作品とゆっくり向き合い、思わず時を忘れる。日常へと立ち返るような心地よさと美しさに満ちた場所でした。

左)2017年に設立された韓国発のガラススタジオ「STUDIO CHACHA」の作品。1点1点趣の異なるシャンパングラスやキャンドルホルダーは、実用としてもユニークピースのオブジェとしても使えそうです。

右)今回の展示のハイライト「SESTRÁ」のベンチやベッド用のクッションのようなテキスタイル作品。何気なく身近にある、コットンの布や言葉を昇華させることで、表現の仕方によって新たな魅力を帯びることに気づかせてくれました。

「Fredericia」&「Santa&Cole」|3daysofdesign

100年以上にわたり、デンマークの家具づくりを支えてきた「Fredericia」。ショールームでは、「Fredericia: A Chronicle of Danish Design」と題し、歴史的な作品と現代のデザイン、アーカイブ資料や素材研究を通して、その歩みをたどる展示を開催しました。ボーエ・モーエンセンやナナ・ディッツェルから、セシリエ・マンツ、ジャスパー・モリソンまで、世代を越えたデザイナーの作品が集結。素材への誠実さや職人技といった価値が、時代に合わせて形を変えながら受け継がれてきたことを伝えていました。

コペンハーゲン旧市街、ロウストレーゼ通りにある「Fredericia」のショールーム。通りに面した大きな窓には、ナナ・ディッツェルの「トリニダードチェア」をはじめ、ブランドの歴史を彩るたくさんの家具が世代を越えて並びました。

その一室で、スペイン・バルセロナを拠点とする「Santa & Cole」が展開したのが、「Light Reading: Chapter Two」です。「Fredericia」と「Santa & Cole」が選んだ、光とデザインにまつわる書籍を集めた閲覧室を構成。照明と家具、本が穏やかに響き合う空間では、来場者が椅子に腰掛け自由に本を手に取ることができました。

家具や照明を眺めるだけでなく、それらに身を委ね、ページをめくりながら時間を過ごす。「デザインについて読むこと」と「読む時間をデザインすること」が重なり合う展示からは、ものが日常にもたらす体験までを大切にする、両ブランドの姿勢が感じられました。

ショールーム内に設けられた、「Fredericia」と「Santa & Cole」のデザインや光にちなんだ書籍が閲覧できるスペース。ゆっくりと腰かけ、名作家具と照明を体感しながら、ページをめくるひとときを過ごせました。
左)屋上のペントハウスの空間に並んだ、ナナ・ディッツェルが1962年にデザインした「Trisse Collection(トリッセ・コレクション)」の復刻版。写真では、スツール、コーヒーテーブル、ダイニングテーブルがサイズ違いで並んでいます。
 
右)ナナ・ディッツェルのデザインの背景を紐解く、写真や貴重な資料も展示されていました。

「Openhouse」|3daysofdesign

街の中心部に佇む、歴史的なタウンハウス「The Conary」では、バルセロナ発のデザイン・カルチャーマガジン「Openhouse Magazine」から派生したクリエイティブスタジオ「Openhouse」がキュレーションした「Echoes of Space」が開催されました。展示のテーマとなったのは、ものが置かれる場所や周囲の空気によって、その意味や感じ方がどのように変化するのか?という来場者への問い。それぞれの室内に「Expormim」「Saba Italia」「JOV」「Japan Form」、家具デザイナーのマイク・ハウスマンら、異なる背景を持つブランドや作家たちが多数参加し、アトリウムや居室など、建物が持つ異なる性格を生かしながら、家具や照明、ラグ、オブジェを、それぞれの空間と呼応するように構成しました。

「The Conary」の3階に設けられた「Saba Italia」の展示空間。ロビン・リッツィーニによる新作の屋外用シーティングシステム「Oasi」と、ニコラ・パヴァンによる「Voilà」アームチェアを中心に、柔らかな光とラグやカーテンのテキスタイルを重ねた、穏やかなくつろぎの空間を演出していました。

作品を単体で見せるのではなく、建築や光、隣り合うものとの関係から、その佇まいを捉え直す。部屋を移るたびに空気が緩やかに変化し、デザインを「見る」だけでなく、その場所でどのように感じて使い、過ごすのか。観る人の思考を巡らせるような展示スタイルは、今年の潮流の一つでもあり、見応えがありました。

吹き抜けにリズミカルに浮かぶのは、飛松弘隆による「飛松灯器」の磁器製ペンダントライト。ストックホルムを拠点に日本の工芸を紹介する「JAPAN FORM」が展示を手がけました。磁器の透光性を生かした柔らかな明かりと、天窓から差し込む自然光が重なり、時間とともに表情を変える光の風景を生み出していました。
Javier Pastorによる新作テーブル「Leku」。溶融ガラスの天板と木材の力強い脚に、「Norm Architects」がデザインした籐の「Loop」チェアを組み合わせています。陶器やガラス、金属によるオブジェを添え、異なる素材が静かに響き合う、落ち着いた展示でした。

「FRAMA」|COPENHAGEN DESIGN WEEK

家具や照明、フレグランス、セルフケアまで、暮らしにまつわる領域を横断するコペンハーゲンのデザインブランド「FRAMA」。1878年に開業した薬局を改装した「FRAMA Studio Store」を舞台に、香りを空間の一部として捉える展示「The Mechanics of Scent」を発表しました。

会場に設けられたのは、香りを目に見える動きへと変換する8つの「Scent Sculptures」。アーティストのデヴィッド・ガードナーとの協働により、香りを染み込ませた和紙を機械の力で揺らす作品や、土の球体を香料の中へ運び再び取り出す装置、香りを含んだ水を水車で循環させる作品などが展示。古くからある技術や簡素な機械を用い、空気のなかを移動する香りの存在を可視化するという、とても実験的な試みでした。

ストア内の中央に配置されたテーブルの上に、土の球が香りの受け皿の上下を行き来する仕組み。

展示の中心となった香りは、誕生10周年を迎えたサンダルウッドやシダー、イランイランを調合した「FRAMA」のシグネチャー「Apothecary」。スタジオになる以前の薬局から着想を得たものです。目には見えなくても、記憶や感情を呼び起こし空間の印象を形づくる香り。家具や建築と同じように、香りも暮らしを構成するデザインになり得ることを、静寂な空間の中で想起させるような展示でした。

左)今年のテーマ「The Mechanics of Scent」。アルミのフレームに断続的に小さな紙を合わせ、室内の風の揺らぎから香りを感じる提案です。

右)このイベントのために制作された風車も。香りを含めた水が回ることで、空中に拡散されていく実験的な展示でした。
「FRAMA Studio Store」の一角。アルミニウムのシェルフに、陶器やガラス、木の器、古書、アートなど、素材も年代も異なる品々が並びます。日用品とオブジェを分け隔てなく取り入れるスタイルはお手本になりそうです。