“人の暮らしも、植物も、
それぞれに違うから”
多くの遺跡が今も息づく奈良県橿原市。古都の趣が感じられる街並みを歩いていると、その一角に緑豊かな空間が現れる。石造りの門の前には〈種木屋 塩津植物研究所〉の看板。奥から塩津丈洋さん、久実子さん夫婦が笑顔で出迎えてくれた。
二人が営む〈種木屋〉とは、盆栽などに仕立てるための植物を種や挿し木から育てる生産者のこと。敷地内にところ狭しと並べられた大小さまざまの苗は約100種類、数にして5000鉢に及ぶ。「“雑草”と括られて一般的には流通できないような、おもしろい植物も育てているんですよ」。元来、盆栽の世界は種木屋が植物を生産し、鉢は専門業者、最後に仕上げる盆栽職人と、分業で成り立っているというが、ここでは苗を選び、鉢を選び、自分で盆栽をつくって持ち帰ってもらうスタイルが定番。「植物は人それぞれ好みも分かれるし、育てる環境も違います。いろんな種類(の苗)を置くことで、ここがどんな人でも自分に合った植物に出会える場所になれたら嬉しい」と丈洋さん。
“ニーチェアは環境が変わっても、
いつでもついてきてくれた”
そんな塩津家の日常は、文字通りに「仕事と暮らしが地続き」だ。約300坪ある敷地のほとんどは植木棚やビニールハウスが占め、その突き当たりに位置する10坪ほどの母屋が住居スペース。窓を開け放てば、いつでも植物の様子を観察できる。植物がのびのびと成長できる環境を優先する一方で「部屋が狭すぎて、趣味のものは置けないね」と、二人で笑う。
自ずとインテリアも限られるため「飾りのようなものではなく、その空間にある意味を感じられるもの」だけが残っていった。
そんな中で、ニーチェアは「暮らす環境が変わっても、いつでもついてきてくれる存在」だったという。デザインや建築を学んでいた学生の頃から、修行時代、独立、そして結婚に出産と丈洋さんの人生を共に歩んできた。
“暮らしに心地よい普遍的なものの価値”
「ニーチェアは和でも洋でも、空間を選びませんよね」その普遍性に、種木屋として共感する部分もあるのかもしれない。「床の間からリビングへと生活様式が変われば、盆栽の大きさや飾り方だって変わってくるはず。僕たちも、伝統的な技術を大切にしながら、現代の暮らしに無理なく取り入れられる盆栽を提案したいです」。