日々の暮らし

パリ出身、
若手クリエイターと訪ねた
ニーチェアエックス、
倉敷帆布のものづくり。

ニコラ・ユタナン・シャルモさん
〈シアージ〉ディレクター

「ニーチェアエックスのものづくりについて、
ドキュメントをつくったらみんなも見たい?」

ある日、インスタグラムのストーリーズにアップされた1件のポスト。その投稿者とは〈シアージ(Sillage)〉のブランドディレクター、フォトグラファーなど多彩に活躍する若手クリエイターのニコラ・ユタナン・シャルモさん。ファッションアイコンとしての一面も持ち、彼が独自のセンスで国内外からセレクトしたアイテムには世界中から注目が集まります。

今回はそんなユタナンさんと、ニーチェアエックスの生地製造を担う工場のひとつで、日本随一の綿帆布の産地でもある岡山県・倉敷市の〈倉敷帆布〉のものづくりを訪ねました。その様子を、彼ならではの視点で切り取った美しい写真とともに紹介します。

また、ユタナンさんがニーチェアエックスのどんなところに惹かれたのか。なぜ、ものづくりの現場を訪れたいと思ったのか。そんな問いを投げかけてみると、彼の作り手に対する敬意、ものに対する愛情に溢れた人物像も見えてきました。

ニコラ・ユタナン・シャルモさん

ー まず、倉敷帆布の工場を訪ねてみて、いかがでしたか? 特に印象に残ったシーンがあれば聞かせてください。

まず驚いたのは、1950年代の旧式織機(シャトル織機)が今でも現役で活躍していること。大きな音を立てながら生地を生み出すその姿は、まるでモンスターのようだったね。それを高度なスキルと豊富な知識で使いこなす、エンジニアのみなさんの仕事を間近に見れたことは素晴らしい経験だった。古い機械を使って、新しいプロダクトが生まれる現場に立ち会えたことにもとても感動したよ。

旧式のシャトル織機。時間をかけてゆっくりと糸を織ることで独特の風合いが生まれる。

ー 織機の中には海外から取り寄せてきたものもあって、その際には〈倉敷帆布〉のみなさんで外国語の説明書を翻訳するなど、試行錯誤しながら技術を習得されたそうですね。

長い時間をかけて学び継承されてきた彼らの技術に、職人の本質を感じたよ。今回ぼくたちを迎えてくれた〈倉敷帆布〉は、一族で4世代にも渡って帆布を作り続けている。その歴史さえも、彼らが一流のファブリックブランドであることを物語っていると思うんだ。それに、この織機は今はもう作られていないんだよね。古いパーツを残しておいて、自分たちで修理をしながら使っていることも素晴らしいことだと思う。ちなみに、ぼくの愛車の〈ディフェンダー〉も古いもので、海外からパーツを取り寄せてメンテナンスをして大切に乗っているんだ。 だから、彼らの気持ちがとても分かる気がするよ(笑)

1930年代に使われていた生地のサンプル帳。今も工場の一室に大切に保管されている。
部品置き場には、旧式織機の古いパーツが大量にストックされている。

ー 今回の旅を通じて、ニーチェアエックスに対する印象にも何か変化はありましたか?

もちろん。ニーチェアエックスへの興味が、ますます高まったよ。ぼくはブランドについて知るとき、ブランドがいかに顧客のことを考えて、質の良い製品を提供しているかを見ているんだ。〈倉敷帆布〉の生地もニーチェアエックスのボディとして使われるまでに、さまざまなプロセスがあることを知ったけれど、ニーチェアエックスは(使い勝手や使い心地を)本当によく考えて設計されているということがよく分かったよ。

あとは、ニーチェアエックスが肘木・パイプ・ネジと全てのパーツがそれぞれ別の工場で作られているということも、今回はじめて知って驚いたこと。まさに、日本各地のものづくりが集結したオールジャパンの椅子だといえるよね。また機会があれば、他の工場も訪ねてみたいな。

ー ちなみに、はじめてニーチェアエックスを知ったきっかけは? どんなところに惹かれたのでしょう?

何年か前に、友人からニーチェアエックスのことを聞いたのを覚えていたんだ。それが最近、インスタグラムの投稿で再び目にする機会があって、そのときの記憶と繋がったんだよ。ミニマルなデザインと、必要に応じて折り畳める利便性。そのどれもが、本当に気に入っているんだ。ニーチェアエックスは機能的で快適、そして美しいという、ぼくが思う日本のプロダクトの素晴らしさを体現していると思っているよ。

〈倉敷帆布〉で生産されるニーチェアエックス専用の生地は、しっかりと身体を支える厚手でありながらも、起毛加工を施して肌触りをよくするなど、細部にまでこだわりをもって開発された。

ー ユタナンさんのインスタグラムにも、ニーチェアエックスが度々登場していますよね。クロスを掛けてみたり、スニーカーを置いてみたりとスタイリングが新鮮でした!

そうそう。ニーチェアエックスは、写真に収めたときの見栄えもとても良いんだよ。流行や好みのテイストに左右されない、とてもタイムレスな魅力があるよね。ぼくみたいに好きなものに囲まれた家でも、ミニマルでシンプルな家でも、どんなインテリアとも相性が良いと思う。

市場でクールで手頃な価格の椅子を見つけるのは、簡単なことではないよね。よくヴィンテージの椅子を試してみることもあるんだけれど、高すぎたり、壊れやすかったり。有名なブランドの椅子を買うのも良いけれど、『自分だけのもの』という愛着を覚えるという意味でもニーチェアエックスは素晴らしい。

ー ところでなぜ、ニーチェアエックスのものづくりを記録(ドキュメントに)したいと思ったのですか?

「自分がいいと思ったものや好きなことを(ぼくのことをフォローしてくれている)コミュニティのみんなと共有することを大切にしているんだ。特に伝えたいのは、『Buy less, but better. ーより少なく、よりいいものを買う』ということ。コミュニティのみんなには、一人の消費者として“ものを買う”という行為に責任を持つことを知ってほしいんだ。そのためにはまず、ものづくりの背景をよく知ることだよね。そういう意味でもニーチェアエックスは、心から紹介したいブランドだったんだ。だから、岡山でこうして倉敷帆布の現場を訪ねることができたのは、そのための大きな1歩だったと言えるね。

ユタナンさんが愛用しているニーチェアエックスの色もキャメル。「自宅のインテリアは濃い色の木材がメインだからマッチすると思って。アームにはダークブラウンを選んだよ。本当は、スペースさえあれば全色を買いたい(笑)」

ー ユタナンさんが発信するハッシュタグ #whatwewear では、いつもクールでユニークなものを見ることができます。そのような製品に出合うために、どのようなプロセスを大切にしているのですか?

インスピレーションの源泉になるものに、常にアンテナを張って探し続けること。新しいものはほとんど、オンライン(インターネット)で発見しているよ。その行為は、自然な好奇心であって、ぼくの創造的なプロセスの一部なんだ。そこにファッション、デザイン、アートと境界線はなくて、さまざまなことに興味があるんだ。

ー ユタナンさんは一年を通じてたくさんの「新しいもの」に出合うと思います。一方で「好きなものを長く使う」ことについて、どのように思いますか?

まさに、ぼくがものを買う時に大切に考えているのは、それが長く使えるものかということ。ものには使い込まれていくうちに生まれる、経年の美しさがあるよね。ニーチェアエックスはもちろん、全てのインテリア、ファッション、日用品、どれも同じ考え方で選ぶようにしているよ。

「ニーチェアエックスは、日常使いにおける究極のインテリアピース」とユタナンさん。

ー 最後に、ユタナンさんが昔から大切にしているものについてひとつエピソードを教えてください。

60年代はじめに作られた〈フェラーリ〉のトゥーカンランプかな。16歳か17歳のときに、パリのルーブル美術館近くにあるヴィンテージの家具店で、そのランプを見つけたんだ。でも、当時学生だったぼくには、そのランプは高すぎて諦めたんだ。それが数年後に同じランプを見つけることができて、今でも東京の家に大切に置いてあるよ。

何か好きなものを見つけたときは、それを手に入れるまで頭から離れなくなるんだ。それを売ったり、処分することは決してないよ。そんなの、あまりに寂しすぎるからね。だから、ニーチェアエックスを最近やっと手に入れることができたのも、本当に嬉しかったんだ! これからどんなシーンで、どうやって使おうか。今から、とても楽しみだよ。

Nicolas Yuthanan Chalmeau

フランス生まれ、日本在住。自身のブランド〈シアージ(Sillage)〉をディレクションし、そのオンラインショップやセレクトショップ#whatwewear storeを主宰する傍ら、フォトグラファーとしても活躍するマルチプレーヤー。インスタグラムアカウント@yuthanan__で更新されるコンテンツに多くのファンを持つ。愛称は“ニコ”もしくは“ユタナン”。

Nicolas Yuthanan Chalmeau https://www.instagram.com/yuthanan__/?hl=ja
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