日々の暮らし

ビームス「フェニカ」
ディレクターに聞いた
“愛着のあるもの”
と出会うセンスの磨き方

テリー・エリスさん 北村 恵子さん
ビームス「フェニカ」ディレクター

人気セレクトショップ〈BEAMS(ビームス)〉のレーベル〈fennica(フェニカ)〉。そのディレクターであるテリー・エリスさんと北村恵子さんは、日本や北欧を中心とした世界中の民藝や伝統文化に魅了され、店を通じてそれらを日常的な生活やファッションに取り入れる提案を続けています。プロダクトデザイナーの柳宗理さんとの出会いをきっかけに造詣を深めた民藝の世界。作り手たちへの敬意と愛情に溢れ、唯一無二の感性でものとの出会いを楽しむ二人の姿には、ニーチェアエックスが目指す「愛着のあるものと重ねる豊かな暮らし」へのヒントがありました。

左:北村恵子さん 右:テリー・エリスさん

“北欧と日本。地域性に根付いたものづくりの魅力。”

ー まず〈フェニカ〉のはじまりについて、教えて下さい。

北村恵子さん(以下、北村さん) レーベル自体は1997年にスタートして、〈ビームス・モダン・リビング〉の中でやっていました。当時、デザイン好きと手仕事好きは真っ二つに分かれていて、その両方を融合したスタイルという発想がなかった。でも、民藝の巨匠と言われるような方々のお宅にお邪魔させていただくとデンマークの家具もあれば、そこにイタリアのランプを合わせていたり、世界中のものを自由に組み合わせて楽しんでいたんです。その佇まいがとても素敵でしたし、自分たちも生活の中で実践していて楽しかったので、そういった「境界線」をなくしたいという気持ちがありました。

ー 当時、洋服のセレクトがメインだった〈ビームス〉が、なぜインテリアセクションに進出されたのでしょう?

北村さん 当時は、ビームスが創業して16年ほど経った頃で。年齢を重ねて、家庭を持つようになったお客様の中には、服以外に家具とか器とか、家で使う良いものが欲しいという人もいるんじゃないかと思ったんです。インターネットもない時代だったので、世界中の書籍や雑誌を読んだり、美術館やギャラリーに足を運んで勉強して。2年くらいかけてリサーチを重ねて、日本で見ることができなかったもの、ビームスの売り場で受け入れられそうなもの、そしてもちろん自分たちが好きなものを資料にまとめて、社長にプレゼンしました。それがきっかけで生まれたのが〈ビームス・モダン・リビング〉です。

「流行に左右されるのではなく、使うほどに好きになる商品を届けたい」と北村さん

ー 〈ビームス・モダン・リビング〉では、どんな商品を扱っていたのですか?

北村さん 最初は、北欧の家具を中心にセレクトしていました。当時、アメリカンビンテージの店はすでに都内に2軒ありましたし、彼らをとてもリスペクトをしていたので自分たちは別のところでやってみようと。

テリー・エリスさん(以下、エリスさん) 一方で、北欧のビンテージ家具は70年代の第一次ブームのイメージが根強く残っていて、全く流行っていなかった。アメリカのイームズなどに比べてキャッチーではないし、何も知らない人が飛びつくようなデザインではなかったんです。私たちはあえて、そこから50年代、60年代まで遡ってみました。

店内には、世界中から集まった衣食住にまつわる手仕事のものが所狭しと並ぶ

北村さん だからビームスのお客様でも知らない人がほとんどで、逆に「実家やおじいちゃんの家にこんな家具あったかも」なんて懐かしんで下さったり、「こういうのも北欧にあったんだ」と新鮮な視点で見てくれました。

エリスさん 北欧には、普段の生活圏から30分くらいの距離にサマーハウスというものがあって、夏の間は週末だけそこで過ごしたりするんです。そういう場所に置かれている家具が、代々使われてきた古いものだったり、現代風のインテリアと上手くミックスして使っていてとてもユニークだったんです。

北村さん 北欧の人たちはものを買ったら10年、20年かけて使うのが当たり前で、孫が使うことまで考えているんです。実際に現地の友人宅に行くと「これはおじいちゃんが使っていた椅子」とかが普通。そういうところも、すごく良いなと思いました。

それに、北欧と日本はものづくりの姿勢や考え方が近い部分があると感じています。北欧は寒さの厳しい環境で暮らしている。日本も南北に伸びているから、寒い地域も暑い地域もあって、毎年の大雪や台風がやってくる。そういう自然の猛威とか気象条件の中で生きているという部分で、つくり手の想いがプロダクトやデザインにも自然と生かされている気がしていて、そんな地域性に根付いたものづくりに惹かれていったのかもしれません。

エリスさんはロンドンでスタイリストとして活躍後、北村さんとともに〈フェニカ〉のディレクションとバイイングを担当

“日本のモダンデザイン、柳宗理さんとの出会い。”

ー 北欧のモダンインテリアからはじまり、なぜ日本の民藝に注目するようになったのでしょう?

北村さん 海外のインテリアの書籍などを読んでいると「バタフライスツール」が必ずと言って良いほど出てきたんです。でも、実物を見たことがなくて。日本で販売しているところを調べると、池袋の東武百貨店の1階に日本デザインコミッティーが展開している売り場があったんです。そこにアメリカの輸出用につくられた大きなバタフライスツールがあって。

エリスさん 私たちがリサーチする中で見ていたものは、木目がきれいなローズウッドのもの。でも、アメリカの人から見ると、オリジナルのバタフライスツールは華奢に見えたんじゃないかな。だから、もっと安定感のある、白木で大きなものをつくったのだと思います。

北村さん インテリアセクションをスタートしていくのであれば、日本の椅子、特にバタフライスツールは絶対に置きたかった。資料に「ソウリ・ヤナギ」「ジャパン・フォーククラフト・ミュージアム」と書いてあるので、日本民藝館に電話をしてデザイナーの柳宗理さんの事務所を教えていただいて、直接会いに行ったのがはじまりでした。

紆余曲折を経て出会った「バタフライスツール」は、2人にとって思い入れが強い椅子のひとつ

ー 柳宗理さんとの出会いが、お二人の視野を広げるきっかけになったのですね。

北村さん 柳先生には、本当に色々と教えていただきましたね。当時、柳先生が民藝館の館長を務めていらっしゃって、展示会に出展するものの選考会に呼んで下さったことがありました。そのときに見たものの迫力は、今でも忘れられません。その中でも、特に気になったのが沖縄のものづくり。「こういうものは現地で見てこないと! 」と後押しされたことが、沖縄のものづくりに触れるきっかけにもなりました。

エリスと2人で(民藝館の)展示替えを手伝ったこともあります。ちょうどその日に(山形県の家具メーカーの)天童木工さんからバタフライスツール用のローズウッドのデッドストックが出てきたと連絡をいただいて、そのローズウッドを使用したバタフライスツールを限定25台ほどつくっていただくことができました。

エリスさん 私たちのロンドンの友人が来日したときに、その限定のローズウッドのバタフライスツールを持ち帰って。彼らは家具のディーラーやデザイナーだったので、それがきっかけとなってヨーロッパでの生産もはじまったんですよ。

北村さん ニーチェアエックスも日本のモダンデザインという文脈でとても良く見かける椅子で、ビームス・モダン・リビングの頃にも展開させていただいたことがあります。

ー ニーチェアエックスのどのような部分に魅力を感じますか?

エリスさん まず何より、コンパクトに折り畳めるところ。限られた居住スペースを上手に活用する、日本人らしい発想だと思います。あとは、快適性。折り畳みの椅子ってあまり長時間座るためのつくりではないことも多いけれど、これは本当に座っていて楽。家の中でも外でも使えるのも良いですよね。

北村さん 経年変化を楽しむ、という部分でも魅力的ですよね。わたしたちがセレクトや別注でつくってもらう洋服や家具も使えば使うほど味が出たり、変化を楽しめるものが多いです。ニーチェアエックスも、キャンバス生地や肘かけの部分など、すごく綺麗に色が変わっていくんだろうなとワクワクします。

「畳んだ時の形も日本的でとても美しいです」とエリスさん

“着て、座って、食べて。自分たちの生活の中から「センス」は生まれる”

ー これまでにも衣食住の多種多様な楽しみ方を提案してこられたお二人。「フェニカ」としてこれから取り組んでいきたいこと、使い手に伝えていきたいことはありますか?

北村さん 「民藝を世界のものとミックスする」ことは(フェニカのスタート当初から)ずっとやってきていることなのですが、例えば、南米の方で別注のラグを織ってもらったり、アフリカのものを松本民芸家具とミックスして提案するイベントを開催したり。ここ数年で特に力を入れていることのひとつです。

大胆で色鮮やかなデザインが魅力的な諸国の布物

ー 「ミックス」するにはもの選びのセンスも重要ですよね。お二人は、その審美眼をどのように培ってこられたのでしょう?

北村さん やっぱり、自分たちの生活の中で、使っていくうちに生まれてくるものなんだと思います。着て、座って、食べて。とにかく全部をやってみる。ぱっと見て良さそうだから、という決め方は絶対にしません。あとは、ものをたくさん見て、出来る限りお金を使うこと。やっぱり自分で苦労して買ったものって、すごく身に付くんです。絶対に無駄にもしない。だから、まずは頑張れるギリギリくらいまでお金を使って買ってみることですね。そこから得られるものは、とても大きいと思います。

エリスさん 生活も、店づくりもトライアンドエラーの繰り返しです。これが良いと思っても、全然駄目なときももちろんあります。でも大ヒットするものは確かに会社にとって利益を生むという意味で”良いもの”なのかもしれないけれど、売れないものが悪いものではないし、売れるものが必ずしも良いとも限らないですよね。

「〈ビームス〉には自分好みにカスタムするのが好きなスタッフも多いんです」と北村さん。ニーチェアエックスともどんな“ミックス”が生まれるのか期待が膨らむ

北村さん 日本はブームというものをつくり過ぎなのかもしれないですね。流行がもの選びの指針になると、それが過ぎた途端に興味を失ってしまう。ものは、そこにずっとあり続けているのに。

エリスさん 例えば北欧の家具が好きだったら、世界のものとミックスをするのは全然難しいことではなくて。例えば北欧の家具も、中国の昔の椅子だったり、アフリカの彫刻だったり、色々なところからインスピレーションを受けて自分たちのデザインに取り入れていますよね? だから(北欧というカテゴリを)経由しながらも、そういったデザインにも触れてみると新しい楽しさを発見できるはず。

北村さん もちろん、失敗をすることもたくさんあります。それでも、まずは先入観を持たずに試してみること。だから「これは自分たちっぽくない」というものも全然ないんです。まずは自分たちが楽しむことから。それが何よりも大切なんだと思います。

INFORMATION

fennica pop up store
六本木ヒルズ

期間
2021年12月2日(木)-12月12日(日)
場所
ビームス 六本木ヒルズ
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ
ウェストウォーク 3F
OPEN
11:00 – 21:00(年中無休)

ビームス 六本木ヒルズで開催される〈フェニカ〉のポップアップストアを皮切りに、
ニーチェアエックスの取り扱いがスタートします。
ぜひこの機会にお立ち寄りください。

ニーチェアエックス
取り扱い店舗

ビームス ジャパン
東京都新宿区新宿3-32-6 ビームス ジャパン 5F フェニカ スタジオ
販売開始
2021年12月15日(水)※予定
ビームス 神戸
兵庫県神戸市中央区三宮町1-4-3 クレフィ三宮 B1F
販売開始
2021年12月末※予定
Terry Ellis / Kitamura Keiko

1986年より、アパレルショップBEAMSのロンドンオフィスとして海外ブランドのバイイングを担当。「Emilio Pucci」「John Galliano」「Helmut Lang」「miu miu」などのブランドを見いだし日本に初めて紹介。1995年「BEAMS MODERN LIVING」をスタート。北欧ものを中心に柳宗理のバタフライスツールなども改めて日本の市場に紹介し、日本のインテリアブームの先駆けとなる。2003年からは、「fennica」を立ち上げ、日本を中心とした伝統的な手仕事などを紹介。

fennica

“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマに、日本の伝統的な手仕事をはじめ、世界中から集めた新旧デザインを融合するスタイルを提案している。

fennica www.beams.co.jp/fennica